ま行を使わずに桃太郎を書く試み

 あなたがコンピューターを所持している場合、文字を打つ際にはローマ字入力を使用しているだろうか。あるいは、かな入力を使用しているだろうか。おそらく、ローマ字入力を用いる者が多数派であろう。コンピューターはスマートフォンと違い、基本的にはタップ操作ではなくキーボード操作が大前提となりがちだ。しかし、キーボードも所詮ハードウェアである。物理的な劣化により、接触不良を起こすこともあるだろう。

 

――例えば、「m」のキーが反応しなくなってしまった場合、ま行の言葉を打つことは出来なくなる。

 そこで今回は、ま行を打てない時に桃太郎のストーリーを書き切ることは可能なのかを検証していく。無論、ま行の平仮名は打てなくとも、「桃」という字は「桃源郷」という単語を入力した後に後ろの二文字を消せば一応は使用出来る。しかし、今回はこのような卑怯な手段を用いるつもりは毛頭ない。私はいつなんどきも、フェアプレーの精神を大切にしている。

 

 

「ピーチボーイ」

 これは古より伝承されし話である。とある場所に、おじいさんとおばあさんが住んでいた。おじいさんは山岳へ芝を伐採しに、おばあさんは川へ洗濯に行った。
備考:「昔々」は「む」を含むため使用不可。更に、地の文をですます調にし「ま」すと、必然的に「ま行」の使用頻度が多くなってし「ま」い「ま」す。

 

 おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流の方から、大きなプラヌス・ペルシカがどんぶらこどんぶらこと流れてきた。
「おや、これは良いギフトになるわ」
 おばあさんは大きなプラヌス・ペルシカを拾い上げ、自宅で食べるためにテイクアウトした。
 そして、二人がプラヌス・ペルシカを切ると、中から元気の良い赤ん坊が飛び出してきた。
「これはきっと、神霊がくださったに違いない」
 子のいなかった二人は大喜びだ。
 プラヌス・ペルシカから誕生した新生児を、老夫婦はピーチボーイと名づけた。
 ピーチボーイはすくすくと育ち、やがて強い男となった。
備考:マ行を使わずにモモを名指しするには、学名である「プラヌス・ペルシカ」を用いるしかない。また、「持ち帰る」と同じ意味を持つ言葉でま行を使わずに済む言葉として「テイクアウト」を採用した。なお、ピーチボーイは英語圏における桃太郎の名前であり、かろうじて公式準拠の名称には留まっている。

 

 そんなある日、ピーチボーイは言った。
「鬼の居住する離島に行き、悪い鬼を退治する」
 ピーチボーイはおばあさんの作ってくれたきび団子を携帯し、鬼の居住する離島へと出かけた。
 旅の途中で、イヌに出会った。
「ピーチボーイ、どこへ行く?」
「鬼の住む離島へ、鬼退治に行く」
「では、腰につけたきび団子を一つ頂く。同行しよう」
 イヌはきび団子を貰い、ピーチボーイの随伴者になった。
 そして、今度は猿に会った。
「ピーチボーイ、どこへ行く?」
「鬼の住む離島へ、鬼退治に行く」
「では、腰につけたきび団子を一つ頂く。同行しよう」
 そして今度は、キジに出会った。
「ピーチボーイ、どこへ行く?」
「鬼の住む離島へ、鬼退治に行く」
「では、腰につけたきび団子を一つ頂く。同行しよう」
 こうして、イヌ、サル、キジと手を組んだピーチボーイは、ついに鬼の住む離島へやってきた。

 離島では、鬼たちが近くの村から盗んだ宝やご馳走を並べ、酒を暴飲している最中だ。
「かかれ!」
 イヌは鬼の尻に食いつき、サルは鬼の背中をひっかき、キジはくちばしで鬼の眼球をつついた。
 そしてピーチボーイも、刀を振りながら大暴れだ。
 とうとう鬼の親分が
「ギブアップ、ギブアップ。降参だ、助けてくれぇ」
と、手をついて謝罪した。
 ピーチボーイとイヌとサルとキジは、鬼から取り上げた宝をテイクアウトし、元気よく家に帰った。
 おじいさんとおばあさんはピーチボーイの無事な姿を確認し、大喜びだ。
 そして三人は、宝のおかげで幸せに暮らした。
 おしまい

 

 

 

 おわかりいただけただろうか。私は確かに桃太郎を書き切った。mキーを使わずとも桃太郎の本編を書き切ることは可能なのだ。

 

……ちなみに何の因果か、かな入力の「も」とローマ字入力の「m」は同じキーを使っている。

 

 そしてmはアルファベットの13文字目の文字であり、mason(メイソン)の頭文字でもあるんだよね。日本を代表する童話である桃太郎が普及した背景には、なんと彼の有名な秘密結社フリーメイソンが関わっていたってこと!

 桃太郎は本来、桃を食べて若返った老夫婦の間に生まれた子供だったんだけど、現代では大きな桃から生まれたという設定に改変されているでしょ?

 もしこれが「人間の遺伝子を交配させることなく人間を生み出す技術」や「巨大な桃を生み出す技術」の存在を示唆するために行われた改変なら、この時からすでに新人類の選別は始まっていたってこと!

 更に、犬は英語でdogだけど、これは神を意味するgodのアナグラムで、最初に桃太郎に手を貸す者なんだよね。

 次に猿、これは人類を表していて、最後に残る雉は日本の国鳥に指定されているんだよね。

 メイソンの申し子である桃太郎は神に等しき遺伝子工学の技術を用い、人類を支配し、日本から翼を奪おうとしている。左翼も右翼も失われた日本は、無政府状態に陥るってこと! そして日本人を表す蔑称に「鬼子」という言葉があるんだけど、桃太郎は最後に鬼を退治しに行くんだよね。モモを人工的に巨大にする技術が発表されたら、日本が滅び始めるカウントダウンが始まるんです!

 信じるか信じないかは、あなた次第です。

 

 

……そんな陰謀が存在するわけないだろう。全て、私がたった今でっち上げた話だ。記事にオチをつけるためであれば、私は時にしょうもない嘘をつくことも辞さない。そうでもしなければ当ブログはエンタメ性を欠いてしまう。やはり嘘をつくなら、楽しい嘘をついていくのが一番だ。

 

 嘘そのものが悪なのではなく、人を欺き利用することが悪なのだ。