The Big Peach: 前編(日本語吹き替え版)
またあの話が聞きたいのかい? 良いだろう、その代わりちゃんと寝るんだぞ。
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
「それじゃ、山に行ってくるよ。これから芝をたくさん刈ってくるんだ」
「へぇ。頭の芝もどんどん抜け落ちてるのに? 私は川へ洗濯に行ってくるわ」
「その川、渡るなよ? 召されちまうぜ」
「アンタも道連れにしてあげるわ」
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から、大きな桃が流れてきました。
「ずいぶん大きな桃ね。おじいさんに見せたら驚くわ」
おばあさんは桃を拾い、それを家まで持ち帰りました。
おじいさんは驚きました。
「おいおい、いつのまに俺まで川を渡っちまったのか? こんな大きい桃、この世のものじゃないだろ」
「私が向こうから持ってきたのよ。たかだか林檎一つのことを根に持つ神様から、とびきり大きな桃を奪い取ってやったわ」
「とりあえず、その桃を切ってみないか? 種を植えたらもっと増えるぞ」
「そうね」
おばあさんは包丁を取り出し、桃を真っ二つに切り分けました。桃の中からは、元気な赤ん坊が生まれました。おばあさんは包丁をおじいさんの方に向けました。
「待て、話せばわかる。良いか、落ち着け。深呼吸をするんだ。先ずはその包丁を降ろしてくれないか? これじゃビビッて話も出来ない。なあ、そうだろ?」
「アンタ、私に黙って子供を……」
「落ち着けって。その桃はアンタが拾ってきたんだろ? 大体、俺のようなおいぼれにすり寄る女は、そんなバカげた大きさの桃を持ち帰るような物好きだけさ」
「ふふっ……それもそうね」
おばあさんは包丁を降ろしました。二人は少し話し合い、桃から生まれた子供を育てることにしました。その子供はのちに桃太郎と呼ばれ、世界中で愛される男になります。
ある日、桃太郎は決意しました。
「ちょっと鬼を倒してくる」
それに対し、おじいさんはこう言います。
「ああ、いってらっしゃい。ちゃんとお土産も買って来いよ。ゴディバのチョコレートとヴィトンのバッグと、それから……ちょっと待て! 今何をしにいくって言ったんだ!」
おじいさんが耳を疑うのも無理はありません。しかし桃太郎は本気です。
「じいさん、とうとう耳が遠くなったのか? 俺は鬼を倒すと言ったんだ」
「死ぬには若すぎるぜ、桃太郎」
「そう言うな。俺は、血迷ってじいさんに包丁を突き立てるような女のもとで育てられたんだぜ? 鬼くらいなら倒せるよ」
桃太郎は笑っていました。そこにおばあさんがかけつけ、彼にきびだんごを手渡しました。
「鬼なんてどうせ金棒しか持ってないわ。鬼ヶ島なんて自由の国の一部にしちゃいなさい」
「そりゃ良いね。殺風景なボロの家なんて金輪際だ。ちょうどプライベートビーチが欲しかったんだよ、ジャグジーつきのね」
こうして桃太郎は、きびだんごを携えながら鬼ヶ島へと向かいました。