The Big Peach: 後編(日本語吹き替え版)

 桃太郎は犬に会いました。
「ようあんちゃん。ちょっと良いか?」
「用事なら手短に頼むぜ。俺は鬼退治に行かないといけないんだ」
「腰から下げてるのはヤクか? 一つくれよ」
「おいおい、俺がラリってるように見える?」
「あんた、さっき鬼退治って言ったじゃないか。ヤクは程々にしておけ」
 犬は桃太郎の話をあまり宛にしていないようです。桃太郎は深いため息をつき、その場を去ろうとします。
「お前にはかまってらんないよ。俺はもう行くよ」
「待てよあんちゃん。俺が悪かったぜ。俺も手伝うから、とびきりの奴を一つくれないか?」
「ただのきびだんごだぞ」
「へっ……面白そうだからついていってやるよ」
 こうして犬は桃太郎の仲間に加わりました。

 続いて、桃太郎は猿に会いました。
「桃太郎。こんなところで何をしている」
 猿の質問に、犬は笑いながら答えました。
「聞いて驚け。このボウズは鬼を倒しに鬼ヶ島に向かうんだとよ! パスポートはあるか? きびだんごは機内に持ち込めるのか? ハハハハハ!」
「鬼退治? 今、鬼退治と言ったのか!」
 桃太郎を茶化している犬とは違い、猿は妙に神妙な顔つきをしています。犬は話を続けました。
「良いニュースと悪いニュースがある」
「なんだ?」
「一つは、あんたの聴覚が正常に機能していること、もう一つもあんたの聴覚が正常に機能していることだ!」
 犬の笑い声は止まりません。そんな彼をしり目に、猿は桃太郎の方へと手を差し伸ばします。
「報酬はきびだんご一個、先払いだ。私も連れていきなさい」
「ああ、わかった」
 こうして猿が仲間になりました。

 桃太郎たちは雉に会いました。猿は桃太郎を座席に座らせ、雉についての紹介を始めました。
「さあリラックスして。今コーヒーを入れるから」
「ああ、それはどうも」
「紹介しよう。彼は雉。今回の作戦において、極めて重要な助っ人になる男だ」
 彼がそう言うと、雉は桃太郎の真横まで歩み寄り、羽の先を差し出しました。桃太郎が雉と握手と交わすのを確認すると、猿は話を続行しました。
「まずはこちらの資料に目を通して欲しい。これは鬼の弱点を分析した論文だ。それからこれは安全な航路を記した地図、こっちは鬼ヶ島周辺の侵入ルートをまとめたpdfだ」
「お前と雉がまとめたのか?」
「ほとんどは雉がまとめてくれた。私たちはこれらの資料をもとに行動すれば良い」
 話はまとまりました。桃太郎は雉にきびだんごを手渡します。こうして雉も仲間に加わり、桃太郎たちはいよいよ鬼ヶ島に侵入しました。

 彼らのすぐ近くには赤信号があり、何台かの車が停まっています。桃太郎は先頭の車のドアを開け、運転席に乗っている鬼を引っ張り出しました。
「ちょっと借りるぞ」
 桃太郎はそう言うと、仲間たちを座席に乗せました。桃太郎を乗せた車は他の車の間をすり抜け、荒々しい動きで爆走していきます。やがて彼らの前には、黒塗りの車が立ちはだかります。

 バックミラーに映る桃太郎たちの姿を見て、鬼の親玉はにやりと笑います。
「連中が後ろにいる。撃て!」
 彼の指示と同時に、後部座席に座る鬼たちが桃太郎の車の方へと発砲していきます。負けじと、桃太郎の仲間たちも前方に向かって銃を乱射していきます。やがて、桃太郎の車は黒塗りの車の横に並びました。二台の車は激しくぶつかり合い、鬼の親玉と桃太郎は鋭い目つきで睨み合います。両者ともに全速力で、すぐには止まれません。二台の車の目の前を、タンクローリーが横切ります。

 黒塗りの車からは鬼たちが、盗難車からは桃太郎たちが飛び降ります。二台の車が激しい爆発に巻き込まれたのは、まさにその直後のことです。桃太郎と鬼の親玉は、互いに銃口を向け合います。緊迫した空気の中、犬と猿と雉は桃太郎を見守りながら生唾を飲みます。

 その場に、銃声が響き渡りました。

 倒れたのは鬼の親玉です。桃太郎が勝ったのです。こうして親玉を失った鬼たちは戦いに敗れ、桃太郎はおじいさんとおばあさんの元へと帰っていきました。