昨今の邦楽に見られる傾向の調査

 最近ネタ切れに悩まされているが辛うじて更新が出来た。さて、邦楽についてよく聞く話と言えば、「邦楽ってラブソングばかりじゃねーか」といったところだろうか。果たして本当にラブソングばかりなのか、これを検証する必要がある。日本がラブソングの需要の高い国であれば、多くの日本人が愛に飢えていると考えることもできるだろう。ここでレコチョクの月間ランキングを見てみよう。

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 今回見ていくのは上位六曲だ。歌詞を全て掲載したいのはやまやまだが、それでは引用の域を逸脱してしまうため一部だけ掲載する。まずは六位、あいみょんの「裸の心」の歌詞を見てみよう。

この恋が実りますように

引用元:あいみょん 裸の心 歌詞 - 歌ネット

ラブソングである。歌詞を要約すると「恋愛に懲りまくったけど次の恋は上手くいきますように」といったところか。続いては五位、瑛人の「香水」の歌詞を引用する。

別に君をまた好きになるくらい君は素敵な人だよ

でもまた同じことの繰り返しって

僕がフラれるんだ

引用元:瑛人 香水 歌詞 - 歌ネット

またもやラブソングである。歌詞を要約すると「昔の女から連絡が来たので未練が押し寄せてきました」という感じだ。この調子だと、本当に邦楽はラブソングばかりヒットするという説が証明されてしまいかねない。残す希望は後四曲だ。頼んだぞ、第四位King Gnuの「白日」よ。

どこかの街でまた出逢えたら

僕の名前を覚えていますか?

その頃にはきっと春風が吹くだろう

引用元:King Gnu 白日 歌詞&動画視聴 - 歌ネット

 これはグレーゾーンだ。この曲は終始一貫して、の具体的な関係性については一切言及していない。ラブソングに聞こえなくもないが、そうじゃないと言われても納得はできる。要約するならば「罪を犯しすぎちゃった、全部リセットしたい」といった歌詞だ。歌詞の中で「君」と呼ばれている人物が曲のコンセプトの根幹に関わっているようには思えないため、これは非ラブソングとしてカウントしておくことにする。次は第三位、嵐の「Party Starters」だ。

We're party starters We're party starters

We got those good vibes We're going all night

We're party starters We're party harder

We goin' sky high We're going all night

All night long

引用元:嵐 Party Starters 歌詞 - 歌ネット

 ……和訳しておこう。

 

  僕らはパーティーを始める者

  バイブスをアゲてオールする

  僕らはパーティーを始める者

  空高く跳びオールする

  一晩中

 

 この曲は終始こんなノリだ。いわゆるパリピのノリをそのまま歌にした感じだ。少なくともラブソングではないことだけは確かだと言えよう。続いて第二位、NiziUの「Make you happy」はどうだろうか。

Gave me きれいな恋 Gave me

Held me 小さなこの手繋いで

大切よ ひとりきりにはさせないよ

Take me この私 全部あげたいの

引用元:NiziU Make you happy 歌詞 - 歌ネット

ラブソングだった。それにしても、今の私はまるでひよこ鑑定士のようだ。この曲の歌詞は基本的に、「あなたを幸せにしたい」といった旨を歌い続ける構成になっている。

……昔エホバの証人のおばさんに捕まった時に同じようなことを言われた覚えがある。

 宗教勧誘を行う者の心意は、宗派問わず「相手を救いたい」というところに帰結する。それが押しつけがましい有難迷惑なので非常に嘆かわしいことだ。信仰の自由は尊重するが、どうかそれをこちらに押し付けるような真似だけはしないで欲しい。私はただひよこの雌雄を判別しているだけだ。

 そしてついに第一位の発表だ。YOASOBIの「夜に駆ける」を見てみよう。アーティスト名は夜遊びで、曲名にも夜が含まれる。このアーティストは余程「夜」という概念に執着心を抱いているに違いない。

初めて会った日から

僕の心の全てを奪った

どこかはかない空気を纏う君は

寂しい目をしてたんだ

引用元:YOASOBI 夜に駆ける 歌詞&動画視聴 - 歌ネット

いっそここまでラブソングばかりだと清々しいものだ。上位六曲中、四曲はラブソングだった。ちなみにこの曲は「二人」という単語を四回も使っている。二人であることをこれでもかというくらい強調してくる。それにしても邦楽の歌詞は一人称が「僕」になりがちなものだ。タメ口で喋っている日本人男性は大体自分のことを「俺」と言いそうなものだが、音楽家たちは頑なに「僕」と言いたがる。汚いものから目を逸らして純粋無垢ぶる不自然な歌詞に、「俺」という生き血の通った一人称は合わないのだろう。現実世界の有様が健全とはほど遠い以上、綺麗な歌詞は現実を逸脱する必要がある。私はこれを是とも非ともしないが、もう少し飾り気のない歌を聞きたいと思うものだ。

 実はオスのひよこは、卵を産まないことからその多くが生産効率の都合で殺処分されていると聞く。我々の目に入るものはメスのひよこという名のラブソングだけだ。オスのひよこに目を遣るように、たまには現実と真っ向から向き合うような音楽に耳を傾けてみてはどうだろうか。耳触りの良いさえずりのような曲だけではなく、時には殺処分されるオスのひよこの断末魔を聞くことも大切だと私は考える。

 

結論:音楽とはひよこである